「マッドマックス」に夢中に

北村龍平監督は大阪出身。6歳で母と死別した。フリージャーナリストだった父に付いて転居を繰り返した。

学校には行かず「街を歩いていると補導されるから」と、映画館に入り浸る毎日だった。オーストラリアのアクション映画「マッドマックス」や、米ホラー映画「13日の金曜日」などのアクションやホラー映画に夢中になった。

「当時はレンタルビデオがないから、マイクロカセットでこっそり録音して、後で音だけでイメージするんです。このセリフの直後に銃声がダーン! そこに音楽がドワーって入る、というように」。これが、想像力を鍛える訓練になった。

北村龍平監督

▲北村龍平監督

高校を中退し、豪州へ

思春期、自分は何をしたいのかを真剣に考えた。ボクサー、ミュージシャンと浮かんだが、それらは皆、映画に触発されたものだと気づいた。ならば、映画監督だった。

「いつかいつかって言ってちゃ、いつまでたっても飛べない」。高2の冬、授業中にノートに書き殴った退学届を出し、小学生の一時期暮らしたオーストラリアに単身渡った。

オーストラリアの映画学校の卒業制作で監督賞

2年通った現地オーストラリアの映画学校の卒業制作。2日間で撮った短編アクションホラーが、最優秀監督賞に選ばれた。

その後、1995年に友人らと作った「ダウン・トゥ・ヘル」が第1回インディーズムービー・フェスティバルでグランプリを受賞した。

続いて、デビュー2作目の「VERSUS」が各国の映画祭で絶賛された。

「あずみ」で人気監督に

2003年、「あずみ」などの話題作を手掛け、人気監督の階段を駆け上がった。

従来の日本映画にはないスケールの大きさとスピード感が持ち味だ。


山本又一郎プロデューサー

「あずみ」で組んだ山本又一郎(Mata Yamamoto)プロデューサーは「北村は三度の飯よりアクションが好きで、英語が堪能。監督として日本映画が国際市場に送り出せる貴重な存在だ」と期待を寄せる。

当人は「映画は娯楽、ビジネス」と言い切る。その一方で、エンターテインメントの形でしか伝えられないメッセージもある、と信じる。

参考:https://www.laismp.com/jp/videos.html

泣き言を言わない登場人物

ゴジラ FINAL WARS

▲ゴジラ FINAL WARS

北村映画の登場人物は泣き言を言わず、圧倒的に不利な闘いをためらわない。「不治の病で死ぬヒロインより、どんな局面でもあきらめない人たちに、僕は感動する。泣けるドラマはあっていい。だけどそれしかないと、見ている何百万人の感覚がだんだんまひしてくる」

「ゴジラ」のワンシーン。怪獣を操り地球支配をもくろむ「X星人」が「破壊を繰り返すだけの人間に代わり、我々が支配する」と言い放つ。

「X星人は僕にとってのアメリカ。反米とか、そんな単純じゃないけど」。なすすべもない地球人に、自信を失い、価値観すら人に委ねて見える現代日本人の姿が重なる。